第14章 自覚(太宰side)
私は何故、こんなに苛立っている――?
アリスは首をかしげながら太宰を見ている。その顔は、なぜ怒っているのかを訊ねたそうにしていた。
太宰自身、何故怒っているのか判らずにいる。
判らないが怒った表情のまま、アリスの返答を待つ。
「後者はともかく、前者は本当だよ。」
「……。」
「私の時間…寿命を『消費』してるんじゃなくて『停止』してるんだよ。私の中の『時計』が反対回りするの。」
「根拠は?」
「『ワンダーランド』は私を守るのに特化した異能力。治兄の『人間失格』から逃れられるほどにね。」
「……。」
「4週間くらい前にナイフで刺されたんだけどその時も私だけの時間を巻き戻したみたいで――」
「一寸待った。」
「うん?」
説明を途中で止められて言葉を紡ぐことを止める。
「4週間前って何だい?アリスがその辺の奴等に遅れをとるわけないだろう?何故だい?誰を庇った?」
「ちょっ……顔怖い!治兄が何でそんなに怒るの!?」
「答えない心算なら今から拷問に掛けるのはアリスになるけど。」
「イヤイヤイヤ!訳が判らないから!」
一気に間合いを詰められて、腕を掴まれる。
太宰の目が据わった状態なので流石のアリスも少し怯えている。
太宰の気迫に負けて、『この間ナイフで刺された経緯』の説明をする。
情報を売りに行ったら敵の主犯格扱いされて狙われた。
商売相手が掌を反して敵に為ることなどアリスにとっては日常茶飯事。
何時通り、何事もなく片付けるなり、逃げるなりする積もりだった。
その日は貰うものを貰った後、逃げる気だった。
ところが、その銃撃戦の中に必死に逃げてきたと謂わんばかりの少女が紛れてしまったのだ。
アリスはその少女の手を取り、一緒に逃げた。
少女は、アリスが取引する予定だった組織から、アリスに気をとられている隙を突いて頑張って逃げ出してきたと述べた。
「異能力」に目をつけられ、組織で飼われてたらしい。
取り敢えず、この場を離れようとした瞬間に少女の方を追ってきていた連中の一人に隙を付かれ、刺された。
私の時間の停止の話じゃなかったっけ?何でこんなことに―――。
口に出すことは勿論、出来る筈もなく話終わって黙って太宰を見つめるアリス。