第13章 買い物
男は、少女の云っている事が微塵も判らなかったが、拐われたせいで怒っている事だけは理解できた。
「全く意味不明って顔してるね?どうでも良いけど。そういう訳だから、次に何かをするときは相手を選んだ方がいいよ。でないと今みたいに意味不明な理由で殺される事になるから。」
「!」
矢張り殺される!
自分に手を向けた不機嫌顔の少女を一瞬だけ見て、強く目を閉じた。
「それぐらいにしてやり給え。もう充分だろう?」
「!?」
突如、聴いたことの無い声が部屋に響く。
男は恐る恐る目を開け、声のした方を見た。
「……来るのが遅い。」
ムスッとした表情は変わることなく男の方を見ている少女。
声の主の方を見る気は無いらしい。
その様子にやれやれと肩をすぼめ、少女に歩み寄る青年。
「これでも大分急いだ積もりなのだが、済まなかったね。」
そういうと後ろから少女を抱きすくめる。
「それにちゃんと心配していたのだけどね。」
「それは嘘でしょ。」
「私が触れているのに嘘が判るようになったのかい?それは良かった。今度から一々離れずに済む。」
「~~~!」
アリスは複雑な顔を一瞬だけ浮かべると、漸く男の方を向き、抱き締める。
「治兄なんて嫌いだもんっ!」
「おやおや。それは困ったね。」
苦笑しながら少女の頭を撫でる太宰。
その様子を唯唯見るしか出来ない男。
その視線に気付き、太宰が男に話し掛ける。
「命拾いしたようだね。」
「!」
その言葉に男はハッとする。
そうだ。助かったのだ。
急に思考が回りだし、身体が軽くなる。
背中に隠していた拳銃の存在を確かめ、心の中でニヤリと笑う。
「お前のお陰だ。礼を云わせてくれ。」
「いや、なに。情報料と思えば安いものだよ。」
太宰はニコニコしながら男にそう云うと、アリスを腕から解放する。
「そうか…全部喋っちまったもんな。だがっ!」
「「!」」
パンパンッ!
直ぐに拳銃を取り出し、発砲する。
「死人に口無しって云う…も……んな……。」
確かに弾は出た筈なのに目の前の男、太宰は溜め息を着き、少女に至っては欠伸をしている。
よく見ると二人に到達する前に停止している弾丸が二個。