第12章 意図的な再会
「そういえば治兄は何処に行ったの?」
「太宰さんなら別の依頼に行ったよ。」
「別の依頼?」
「山田くんって言う少年の実姉捜しだよ。」
「へー。大変そうな依頼だね。でも只の人捜しを請け負ったりするの?」
「国木田さんが『何処かで見たことある』ッて云ッててねー」
「…何処かで見た?」
谷崎の言葉に反応するアリス。
それに構わず敦が続ける。
「でも、つい最近お姉さんの存在を知ったらしいですよ。今は引取り手が見付かったらしいんですけど、それまでは孤児院に居たって言ってました。」
「………。」
敦の言葉に何かを思ったのか。
徐にポケットの携帯電話を取り出すアリス。
「太宰さんに掛けるの?」
「うん。治兄に合流して、情報集めしてもいいか確認してくるよ。」
敦の質問にニッコリ笑いながら答えると発信釦を押しながら此の場を立ち去るべく歩き始めるアリス。
「あ、治兄ー?今どこにいるのー?」
二人は何の疑問も抱かずに、去っていくアリスを見送った。
…………。
「電話で許可を得るのは駄目だったんですかね?」
「「あ。」」
アリスの姿が完全に見えなくなった後。
警察官が入れたツッコミで初めてハッとする二人は、盛大に落ち込んだ後、一旦社に戻る事にしたのであった。
―――
とある喫茶店で向かい合って座っている太宰と山田。
太宰の電話の相手が気になるのか、耳をそばだてている。
「―――じゃあ気を付けるんだよ。」
電話にそう告げるとピッと釦を押して山田の方を向く。
「探偵社の方から……ですか?」
「まあ、そうだね。私に用事が出来たらしくて此方に向かっているそうだ。偶々、近くに居た様だから直ぐ着くだろう。」
そう云いながら目の前のコーヒーを飲む。
「そうですか。」
「で?君は姉さんに会って何を聞きたいんだい?」
「一番は両親の事です。太宰さんは赤ん坊の時の記憶って有りますか?」
「無いね、流石に。」
カップをソーサーに置き、キッパリと言う。
「僕にはあるんですよ。少しだけだけど…忘れられない程の記憶が。」
「へぇー。興味深いね。聞かせてくれるかい?」
「はい。それは――」
「ねえ」
山田が話を始めようとしたその時だった。
「「!」」
それを遮るように女性の声が挟まった。