第12章 意図的な再会
「はい。僕の居た孤児院は礼儀作法とかには厳しい処でしたが、3食食べられたし困った生活ではありませんでしたから。」
「本当に…何も困らなかった?例えば……その……酷い仕打ちとか。」
「噂で聞いたことはありますが、僕は全く。」
「そう……なんだ。」
敦が他の孤児院の話を聞いて、複雑な表情を浮かべる。それに気付いてか、山田が慌てて敦に云う。
「あ、でも!もしかしたら僕の居たところでも蛮行はあっていたのかもしれません!僕は他の子達より何に於いても優遇されていたから……。」
「!」
山田のこの言葉に太宰の方がピクリと反応する。
「如何してなんだい?」
「僕がその孤児院に引き取られた日に、僕の名前でかなりの額のお金が寄付されたみたいなんです。」
「…成る程。そういうことか。」
山田の答えに太宰が納得する。
「その額を聞いたとき、幼いながらにかなり驚きました。すぐに手に入れられる金額では無いので、そうだったのかもしれません。」
「因みに幾らほど?」
「五千万円です。」
「五千万!?」
それは優遇される。
想像の範疇を越えた額を聞いて納得する敦。
ピピピピピ………!
携帯電話が突然、着信を告げる。
敦のだ。
「もしもし」
『敦か?急ぎの案件が入った。悪いが直ぐに戻ってきてくれ。』
「判りました。」
短い、用件だけの電話を済ませる。
「国木田君かい?」
「はい。急ぎの案件が入ったそうですので戻りますね。」
「気を付けて戻るんだよ。」
「有難うございました!」
「お姉さん、直ぐに見付かると良いね。」
「はい。」
そういい残して敦は去っていった。
姿が見えなくなるまで手を振り、下ろす山田に太宰が声を掛ける。
「私からも2つ、質問しても?」
「はい。なんですか?」
「山田くんは今、何処で何をしているんだい?」
「今は僕を引き取って下さると言ってくれた方の元で手伝いの様なものを。まだあまり役には立ててないんですけど。」
苦笑しながら答える山田にニッコリ笑ったままの太宰。
「そうか。では次の質問だ。」
「はい。」
「その引き取ってくれた人に云われなかったかい?」
「………何をですか?」
ここまで言い切ると太宰はそれまでとは違う空気を纏って言葉を紡いだ。
「『太宰と云う男にだけは会うな』って、ね。」