第11章 変化
「アリスちゃん、私に言ってた。35人の50倍は人を殺してるって。」
「……今までよく名前があがッてきませんでしたね。」
「アリスは軍警や政治家が隠蔽を謀るような悪事に巻き込まれて以降、黒社会で生きていた。」
「あー。アリスの所業も公に出来ない程の悪事を正義を着ている人間がしてたってことか。それであんなに警察嫌いなんだね。」
乱歩が依然、警察に凄い剣幕で食って掛かっているアリスの姿を思い出し、納得する。
「然り。幼い頃、守らなければならぬ人間達から虐げられ、殺される程の恐怖を植え付けられるという、マフィア達の黒社会よりも質の悪い世界に突然、放り込まれている。」
「……例の異能力開発実験ですか。」
「!何ですか?それ……。」
「何れ話す。」
敦の質問に国木田が短く返事する。
「左様。其処で信じられたのは皮肉にも原因と為った力のみ。それを行使して生きることを決意したが故に、表社会から去っている。世に絶望しているのも、大人を一括りに恨むのも、仲間だと告げる我々すらも信用していないのも総て致し方無い事だ。」
「「………。」」
誰も想像することなど出来なかった。
しかし、まだ数ヶ月しか関わっておらずとも、少女の年齢にそぐわぬ言動は、確かに並大抵の事を経験しただけでは得られない何かを秘めていることは明らかであった。
「――今は未だ、時間以外に解決の術はない。見守ってやれ。」
ハッキリと告げた社長の言葉に全員がゆっくり頷いた。
―――
「顔色悪い…。」
眠っている太宰の頬に触れて呟くアリス。
完全に眠りに入ってるのかアリスに気付く気配がない。
その隣に、迷わず入り込むアリス。
「治兄、心配してくれたのかな……。」
太宰にしがみつくように横向きで横になると太宰が寝がえりを打ち、アリスを抱き締める。
「……アリス。」
「!」
意識がない状態で小さく紡がれた言葉は確かに、自分の名であった。
アリスは太宰の懐に顔を埋める。
「ご免なさい…。」
流れてくる涙など気にせず、アリスもそのまま目を閉じた。
―――
何れ位の時間を眠っていたのだろうか。
この五日間、求めても得ることが出来なかった何時もの感覚が胸に在る気がして、急に意識が浮上する。