第11章 変化
「!?」
何時の間にか自分の腕の中に在るのは寝不足の種であった少女。
その感覚は正しかったのだと笑いが零れる。
「……おかえり。」
アリスを起こさないように小声で囁き、頭を撫でる。
そう安堵したのも束の間、重傷を負っていたことを思い出し、刺された筈の場所を確認する。
「無い…。」
傷を探るも服の上からは全く判らない。
脱がせて確認するか悩んだが、規則正しい寝息を立てている少女を起こすかもしれないと思い止まる。
ま、起きてから見せてもらえばいいか。
まじまじと少女の顔を見ると、その閉じられた目には涙が滲んでおり、顔にはそれが流れた跡も残っている。
「…泣いていたのかい?」
静かに微笑みながら瞼に口付ける。
少女の存在が確かなモノだと判ると抱き締め直し、太宰は再び目を閉じた――
―――
「起きたか、太宰。」
「うん。」
あれから数時間後、太宰は医務室から戻ってきた。
何時もの事であるが片腕でアリスを抱えている。
自分の席に座ると未だ眠っているアリスを膝の上に座らせるように抱え直し、寄り掛からせる太宰。
「眠ってるならベッドに寝せたままにしておけば良かっただろうが。」
「え?嫌だよ?」
「「………。」」
国木田の、誰もが思う当然の事をキッパリと嫌がる太宰。周りにいた連中も呆れ眼で太宰を見ている。
「それにしても何時の間に戻ってきたんだい?」
「太宰が医務室に仮眠を取りに行った数分後だ。」
「え……そんなに前から?」
「?ああ。」
「姿を消したのは矢張りアリスの異能力だった。」
「……その様だね。傷痕が無い。」
「知らなかったんですか?」
敦が不思議そうに訊ねる。
「アリスが出来ることの全てを把握するのは不可能だよ。私の『人間失格』ですら負ける理屈を備えてる。」
「何!?」
「国木田君……声が大きい。」
「すまん。」
アリスの顔を覗き込みながら国木田に云う太宰。
起きる気配を見せなかったアリスに安心する。
「…アリスが異能力について話すなんてね。大分変わってきたかな。」
「……そうだな。」
その場に居合わせた全員が太宰に同意してアリスの寝顔を見、静かに微笑んだ――。