第11章 変化
「一寸待て、アリス。お前今まで何処に行ってたんだ!?そして帰って早々、仕事もせずに出掛けるとは何事か!」
国木田がアリスを制止し、説教し始める。
しかし、アリスの方が一枚上手。
大声で怒られることを想定していたのか両の耳を己の手できっちり塞いでいる。
「最近物騒だからパトロールしてきたんだよ。ちゃんと社長にも言ってから出掛けたよ?そして今からは御使い。ちゃんと仕事してるでしょ?」
「むっ……そうか。」
アリスがこてん、と首を傾けながら真顔で言ってのけると国木田は納得して押し黙る。
そのやり取りを呆れながら観ていた周りは敢えて突っ込みを入れることなく黙っていた。
「そういう訳で、行ってきまーす。」
「行ってきます。」
「気を付けるんだぞー。」
「矢っ張りアリスちゃんって太宰さんに似てますよね。」
「あははッ…」
その言葉に谷崎も思わず苦笑する。
「ねー箕浦くん。それ殺人事件の依頼?」
乱歩が箕浦の手に握られている封筒を指差しながら訊ねる。突っ込み満載のやり取りに気をとられていた箕浦がハッとし、乱歩の方を向いて答える。
「ああ、名探偵。一つ手を貸してもらいたい殺人事件が在ってだな。依頼に来た。」
「お安いご用だよ!丁度、僕の上だけ暗くってうんざりしてたところだったからね!」
「それは良かった。今から早速現場に向かおうと思うんだが。」
乱歩が意気揚々と了承した事に安心する箕浦。
そして其れを疑問に思った国木田が箕浦に質問する。
「乱歩さんを現場に同行させるならその資料は必要なかったのでは?」
「……これは別件なんだ。社長にも話しは通してある。」
そう言いながら封筒を国木田に差し出す。
「じゃあ国木田!僕は仕事に行ってくるよ!それまでに電気、どうにかしててねっ!」
「判りました。気を付けて。」
バタンと扉が閉まるまで乱歩を見送ってから手に持つ封筒に視線を移す国木田。
「どんな依頼ですかね?」
「……社長に言っていると云っていたな。それならあの一件だろう。」
「あの一件?」
「ああ、密売組織が次々に壊滅しているッていうあの事件ですか?」
「……。」
物騒極まりない事件に敦の口が半開きのまま固定される。