第10章 予期せぬ再会
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「社長!アリスを知りませんか!?」
慌てて社長室の扉を開けて尋ねる太宰。
「太宰!ノックしてから開けろ!」
中で何やら報告していた国木田が太宰を怒鳴る。
然し、福沢もそんなこと気にすることなく話を続ける。
「居ないのか!?」
「はい。……やられました。」
顔に手を当てて溜め息を着きながら云う太宰。
「誰です?そのアリスとは。」
「「………。」」
国木田が疑問を口にすると、複雑な顔をして2人が国木田の方を見ている。
「……え?何か変なことでも言いましたか?」
「太宰、今すぐ捜しに行け。あんな話をした後だ。このまま帰らない可能性もある。」
「判りました。」
返事をすると直ぐに身を翻し、出ていこうとする太宰。
その時、太宰の携帯電話が着信を告げる。
「「!!」」
太宰が表示されている相手を確認し、電話に出る。
「……アリス。今何処に居るんだい?」
『散歩。一寸だけ独りで居たいから探さないで。』
「それは出来ない相談だよ。このまま帰らない心算か?」
『………ちゃんと帰ってくるよ。』
「国木田君達がアリスの事を忘れてしまっているようだけど。」
『……記憶を返したら独りにさせてくれるの?』
「今日中に私の元に必ず戻ると約束するなら考えるよ。」
『………。』
考えているのだろう。アリスが急に静かになる。
『分かった。守ってよ、約束。』
そう告げると同時に、プツンと通話が切れた。
ゆっくりと携帯電話を耳元から離すと長い溜め息をつく太宰。
「アリスからか。」
「はい。追いかけてくるなと云われました。」
「………。」
「何だ?またアリスと喧嘩でもしたのか?」
「「!」」
今し方、アリスの名を聞いて誰だと問うたばかりの国木田が何事も無かったかのようにアリスの事を訊ねる。
「な…何だ?社長までどうしたんですか?私、何か変なことでも言いましたか?」
突然、2人が国木田の方を凄い顔をしながら見たため狼狽える。
「………暫く様子みます。」
「嗚呼。下手に刺激するよりその方が良い。」
「?」
そう言うと社長室から出ていく太宰。疑問は解決せぬまま、不思議そうな顔を浮かべて国木田は太宰を見送った。