第10章 予期せぬ再会
「言ってみただけだよ。『福沢おじちゃん』は引き留めてくれると思ったから――ただ『此処に居ていい』って言ってもらいたかっただけ。」
「これくらい何時でも言ってやる。」
「ん。ありがと……」
そう言うと急に目を閉じて、眠りに入るアリス。
「力の使い過ぎか。」
コンコンッ
アリスの寝顔を見ながら呟いたと同時に誰かが扉をノックする。
「入れ。」
短く云うと扉が開き、一人の男が入ってくる。
「聞いていたのか、太宰。」
「いいえ。でも予想はついてましたから。」
タイミングよく入ってきたのは探偵社の社員の一人、太宰治。
「何かあったのか。」
「否、何もないですよ。と言いたいところですが…。」
困った顔をして答える太宰。
福沢の膝で眠っているアリスを「もらいますよ。」と、抱き上げてから福沢の向かい側に座り、自分の膝に頭をのせる。
「隠れて何かしていたのか?」
「そういうのではないです。今日何日です?」
「?12月24日だが。」
「………誕生日なんです。アリスの。」
「!」
「毎年こんな調子なんですよ。」
溜め息を着く太宰。
「……理由があるのか?」
言うか否か。
迷うような素振りを少し見せたが、太宰が静かに話し始める。
「アリスは6歳の誕生日の翌日、例の施設に実験体として売られたそうです。」
「その辺りは本人から少し聞いた事がある。」
「!」
話していたのか。
どうやらアリスが入社して直ぐに福沢にだけ語ったようだ。
「そうでしたか。ではその施設を出てからのことも?」
「……。」
福沢は首を横に振る。
「アリスはその施設で1年2ヶ月過ごしたと言ってました。その時に様々な知識を得たと。小学生らしからぬ知識まで手を出すほどに勉学に励んだそうです」
「…先を見越して、か」
太宰が頷く。
「1年2ヶ月目のある日、『何か』がきっかけで施設を破壊して逃走。実験に投資していた人間や組織……軍警、マフィア、政治家など400人近く皆殺しにしています。」
「何!?」
思わず声を上げる福沢。
ここまで詳しくは聞いていなかったのだろう。
しかし、驚くのも無理はない。
それだけ大規模な事件ならば隠蔽を謀ったにしろ、必ず何処からか情報が漏れる。
それが一切無かったのだ。