第9章 パラサイト
「治兄、待って……あれは不可抗力で、決して私が望んだ訳ではなくて…あの…えっと…」
「へぇ……そう。で?何で逃げるんだい?」
「だって……顔がっ!」
口元は笑っているが眼が完全に怒りに染まっている太宰。
そんな太宰からゆっくりと後退して逃げるアリス。
「珍しいな。アリスが圧されてるぞ。」
「本当ですね。」
太宰の顔が見えない他の連中は暖気に2人のやり取りを見ている。
「!」
トンッ、と壁から逃げ場の終りを告げられるアリス。
その光景は獰猛な獣に追い詰められた小動物の様だ。
太宰がアリスに向かって手を伸ばし、他衆には聞こえない程の小声で囁いた。
「お仕置きだよ。」
急に顎を持ち上げられ、口を、太宰の唇によって塞がれるアリス。
「んんっ!……ッ…んぅッ!」
「「「!!」」」
ぱしぱしと叩き、抵抗するも太宰は止める気配がない。
それどころか口付けは深くなる一方だ。
「………アリスちゃんの云ッてた怒らせたら不味い人って太宰さんだったんですね。」
「きっとそうだな…。」
「あわわっ、と、止めなくて大丈夫ですか!?」
「……やめておけ。夫婦喧嘩は犬も喰わんと云うだろう?」
「それもそうですね…」
全員が顔を赤らめて2人から目を反らしながら会話する。
アリスが抵抗を止めた後も暫く行為は続いた。
完全に力が抜けてその場に崩れ落ちるところを太宰が支える。
漸く自分の成すがままにされるアリスに満足したのか唇を離した。
「……続きは帰ってからね。」
「~~~ッ!」
耳元で囁く太宰。
まだ力が入らずに身体を太宰に預け、肩で息をしているアリスを片手で抱える。
アリスは直ぐに太宰の首元に顔を埋めたため、その表情は読み取れないが唯一見えている耳は林檎の様に真っ赤だ。
その光景を探偵社組とは違ってガッツリと観ていた逃走犯は愕然としている。
「アリスはもう何年も前から私だけのものだよ。ね?」