第9章 パラサイト
「2人きりの時はちゃんと愛を育んでるからね、心配せずとも大丈夫さ。」
太宰がニコニコ笑いながら敦に言う。
「そうですか。」
敦は、半ば飽きれ気味に云いながら、いつの間にかついた武装探偵社のドアノブに手を掛ける。
「ただいま戻りました。」
敦達が入ると彼方此方からお帰りなさいと声が掛かる。
「お帰りなさい。」
「あ、鏡花ちゃん。ただいま。」
トトトッと敦達に寄ってきたのは最年少の泉鏡花。
キョロキョロと辺りを窺って目的の人物が見付からなかった太宰が鏡花に話し掛ける。
「鏡花ちゃん、アリスを知らないかい?」
「アリスちゃんなら国木田さん達と仕事に行ったみたい。」
「おや?急な依頼かい?」
「分からない。私達が帰ってきたときには居なかった。」
太宰の質問に首を横に振りながら答える鏡花。
そんな3人に後ろから声が掛かる。
「帰ったか。」
「「社長!」」
福沢の登場に敦と鏡花が少し緊張する。
「社長、アリスは何処に?」
「逃走犯の追跡に当たっている。」
「と、逃走犯!?」
敦が驚きの声をあげる。
鏡花も目を見開いて社長を見るが太宰は至って普通だ。
「誰が逃走したんです?」
「パラサイトと名乗る組織の主犯格だ。」
「!?」
今の今まで普通にしていた太宰が大きく反応する。
「今、何処です!?」
「太宰さん?」
急に人が変わったように焦り出す太宰。
「脱獄した拘置所に状況確認に…」
「太宰さん!」
全てを聞き終わる前に社から飛び出して行く太宰を呼び止めようとする敦。
「アリスは太宰には云うなと言っていた。何かあるのかもしれん。敦、お前も行け。」
「分かりました!」
「私は?」
「付いて行っても良いが未だ無理はするな。」
「分かりました。」
「行くよ、鏡花ちゃん。」
「うん。」
2人も太宰の後を追って探偵社を出た。
「あの時はアリスが断るなら太宰を、と思っただけだったが…。太宰が彼の様に取り乱すとは。何か深い因縁が在るのかも知れんな。」
福沢は3人の出ていった扉に向かって呟いた。