第1章 情報屋
「……思い出せねーんだよ。」
「何が?真逆と思うけど昨日今日の出来事をかい?中也、それはもう老人ホームに入居しないと…」
「冗談じゃねーんだよ、太宰。」
乗ってこない中也の様子を見て真剣な表情になる。
「中也も、か。」
「ああ。つい先刻の出来事なのに情報屋の事だけ何一つ思い出せねーんだ。」
ボスの言っていた事と同様の事が起きたのだった。
「けど、手前は覚えてるんだろ?」
「私かい?勿論だとも。私の異能無効化に例外はないよ。」
「って事は、記憶を消せる異能か。」
「…否。」
「?」
太宰が珍しく険しい顔をする。
―――
「それが私の異能――『ワンダーランド』の力だからだよ。」
アリスは嫌そうに言い切ると、キョロキョロし始める。
そんなことなど気にせずに太宰は続ける。
「君は複数の能力を持っているのかい?」
「?違うよ?なんで?」
「銃弾を止めただけでなく弾丸の方向を変えてみせて、そして、嘘を見抜く。」
顎に手を当てて考える。
しかし、答えは出ない様でお手上げのポーズをする。
アリスは自分の右側にある倉庫を見るとキョロキョロをやめた。
「何の異能なのかな?」
ニッコリ笑ってアリスを見る。
その笑顔に笑顔で返すと
「秘密だよ!」
そう言いながらアリスは倉庫に向かって走り出す。
「「!」」
数秒遅れて2人がアリスの後を追う。
「シャッター降りてる倉庫に何の用事だ?!」
「未だ何かを隠しているのか、或いは違う目的か。」
アリスはシャッターの隣にある人用の通行扉に向かって全力で走る。
「先刻迄、重くて持つのも儘ならないケースを軽々持って走れるなんてね!」
「糞っ、追い付けねぇ!」
アリスが倉庫前に着く。
それと同時。
突然、通行扉が開いた。
「「!」」
アリスは振り返り、2人に向かって手を振る。
後少しで追い付かれそうな距離。
「ばいばい、またね?」
そう言うと扉の中に入る。
2人も間髪入れずに倉庫の中に入った。
「「!?」」
アリスから遅れて倉庫に入ること、約2秒。
それなのに。
「居ない………。」
其処にアリスの姿は無かった―――。