第1章 情報屋
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カーテンから漏れる陽射しで、太宰は目を覚ました。
寝過ぎたなと思いこそしたものの、反省はしなかった。
勿論、咎める者も今のところは居ない。
「却説」
久しぶりの休息で軽くなった身体を起こし、素早く身支度を済ませる。
ボスへの報告書を先に製作してくれているだろう中也の元へ向かうべく、部屋を後にした。
「やぁ。お早う。」
「太宰さん!」
廊下ですれ違う構成員にのんびり挨拶する。
しかし、相手は何やら尋常では無い様子。
返ってきたのは挨拶ではなく待ってましたと言わんばかりに太宰の名を呼ぶ声。
「如何したんだい?こんな早朝から慌てたりして。」
「否、もう正午を過ぎましたよ!嗚呼、そうではなくてですね、大変なんです!直ぐに来て下さい!」
そう告げられ案内された先は、今から向かう予定だった中也のいる部屋であった。
「なんだ。何かあったのは中也だったのか。」
急いで損した。
不貞腐れながらドアノブに手を掛けようとした瞬間、中から中也の怒鳴り声が漏れてくる。
がちゃりと扉を開けると其の声は太宰が予想していたよりも遥かに大きく、思わず顔をしかめる。
決して、部下の1人が中也に胸倉を掴まれて宙吊りに成っている光景を見たからではない。
「朝も早くから元気だね、中也は。」
「ああ?!手前、今何時だと思ってやがる!時計もみれねーのかよ!」
意識が太宰に移り、部下を落とす。
恐怖で震えている部下に太宰が「下がっていいよ」と告げると脱兎の如く部屋から飛び出していった。
今のは昨日、大男の連行を命令した構成員だったか。
どかっ、と椅子に座り不機嫌を直さない中也。
其の様子に話を聞かずとも事態を察する。
「脱走られた、か。」
「ああ。」
「まぁ厄介な能力だったからね、彼。少しのミスでこうなる事は想定済みだよ。」
やれやれ。
そう言いながら自分も椅子に腰かける。そしてじっと中也の方を見る。
「何だよ。」
「イライラの原因はそれだけではないのだろう?」
「!」
図星のようだ。
太宰に指摘され盛大に舌打ちする中也。