第8章 爆破予告
嘗て一度だけ敵対したことがあった。
その時の任務は政治家の護衛―――。
その政治家は裏で、誘拐してきた人間で人体実験を行っていたのだ。
その行為がアリスの怒りを買ってしまった。
周りの連中が次々と消されていく中で、恐怖に耐えれなかったのだろう。
探偵社へ依頼してきたのだ。
しかし、相手が悪かった。
政治家は自分達の目の前で殺された。
手も足もでないとはこの事だろう。
本当に一瞬の出来事だったのだ。
その一件後、直ぐに探偵社に入社した。
全ては社長である福沢諭吉の一存。
あの時、福沢は「陽のあたる場所にて生きる術を教えねばならん」と言った。
マフィアではないものの、其れに類似した生き方をしてきたのではないか。
あの時の惨状も、直接は見ていないがアリスが作ったものであろう。
並外れた洞察力も恐らく生きる術だったに違いない。
…本人に聞ける訳でもなく、全ては勝手な推測だが。
然し、そう思うと此の惨事を「如何でも良い」と先刻言い切ったアリスの事を怒ることなど出来なかった。
それよりも解決に協力するようになった事の方が喜ばしい。
「国木田さん!」
少し顔を綻ばせていると突如、声をかけられる。
「ん?支配人じゃないか。人員点検か?」
「はい。犯人は眠ってしまってる様なので3人で見てます。私ともう1人で手分けしてお客様と従業員が残ってないかの確認を…ご一緒してよろしいでしょうか?」
「嗚呼。次は2階だ。行くぞ…」
ピリリリリッ
そう言い切る途中で国木田の携帯電話が鳴る。
「ん?アリスか?…!」
「?」
アリスの連絡と思いきや、ディスプレイに表示されている名前は「太宰治」
その文字を見た瞬間、顔をしかめる国木田を不思議そうにみる支配人。
大きく息を吸い込み、通話釦を押す国木田。
『もしも「仕事もせずに何処をほっつき歩いている!この心中詐欺師が!!」』
余りの声の大きさに慌てて耳を塞ぐ支配人。