第1章 情報屋
今、其のケースをアリスに渡したのは自分ではなく太宰だ。
戦闘のどさくさに紛れて中身をすり替える事など彼奴にとっては造作も無い事―――。
それ故に、中也にすら太宰の発言の真偽が判らなかった。
長期く相棒をしている中也にも判らないことなのに。
「嘘吐き」
「「!」」
初対面であるアリスは、何の躊躇いも無く返答した。
「抑も、取引相手が最初から私の事を知ってる筈がないもん。謀る心算なら初めから用意なんかしてないでしょ?」
「君の姿を認知して、謀ろうとするかもしれないじゃないか。例えば―――」
ヘラヘラ笑っていた太宰の眼が急に鋭くなる。
「今の私達の様にね。」
「!」
本当の事を言っている時の空気を纏ってやがる――!
中也は太宰を見やる。
真逆…本当に謀る心算か。
そんな2人を見てアリスはクスクス笑い始める。
中也もアリスの方に目線を戻す。
「それも嘘でしょ?」
「何を根拠に?」
「……。」
笑い合ってはいるが、お互い目が笑ってない。
言葉の駆け引きにより、緊張した空気が広がる。
沈黙。
其れを先に破ったのはアリスだった。このままだと帰れないと思ったのだろう。
溜め息を1つ付き、口を開く。
お兄ちゃん…太宰治には言う心算が無かったんだけど。と、前置きして。
「それが私の異能――『ワンダーランド』の力だからだよ。」