第7章 陽の当たる場所
「車が来てるから此方に寄りなさい。」
母親が子供達に指示をした。
然し、車の様子がおかしい。
「……え……」
車は道也ではなく、子供達に向かって来ているのだ。それも制限速度を遥かに上回るスピードで、だ。
「真逆………」
「居眠り運転……!?」
アリスが運転席を確認する。
想像通り、運転手の目は開いていない―――。
「「きゃー!!」」
もう駄目だ、と母親が子供達を庇うように抱き締める。
「チッ!」
アリスが手をあげたのと同時に
「止まってーーー!」
◇◇が車に向かって叫んだ。
キキィーーーッ!!
それに反応したように車が停車する。
「止まった……。」
運転手は未だ眠ったまま。
タイヤはアクセルを踏まれているにも拘わらず、前に進めずにいるせいで凄い音を出している。
「凄い!◇◇は本当に魔法が使えたんだ!」
母親は驚き、子供達ははしゃぎ出した。
其の声で運転手が目を覚まし、慌てだした。
アリスは何も云わずに、ただその光景を観ていた―――。
「遅くまで有難うございました。」
家の前で深々と頭を下げ、お礼を述べる母親。
いえいえ、と返すアリスの洋服の裾を引っ張る◇◇。
「お姉ちゃん、私、本当に魔法使いだったでしょ?!」
満面な笑みで話す◇◇。
「そうだねー。お姉ちゃんビックリしちゃった。」
勿論、車を止めたのはアリスだった。
然し、真実を少女に告げる気は全く無かった。
夢を壊すのも……ね。
この思いが強かったのだ。
それに、先刻の出来事が◇◇がしてようとしてまいと、此の母親なら変に利用したり公にしたりすることないだろうと確信していたのだ。
然し、矢張り少し罪悪感を感じつつ。
笑顔で返事するアリス。
「でも、ママが内緒って言ったから内緒だよ?」
「うん。約束する。」
そういってアリスは◇◇の頭を数回撫で、別れを告げた。
「バイバーイ。お姉ちゃん!またねー!」
手を振りかえし、アリスはホテルへと向かった。
この判断が仇になったのか。
其の翌日、◇◇は7人目の行方不明者として世間を騒がせることになった―――