第6章 事件現場
幼いながらに落ち着いているのは数々の困難を己の力のみで乗り越えてきたからであろう。
福沢は複雑な顔をしてアリスの話を聞いている。
我々と違う、暗い世界で生きる少女を如何すれば光の当たる所に連れ出せるのか。
「でも、乱歩兄は凄いね!自分の実力だけで大人の世界に並んでいるんだから!」
「!」
落ち込んでいた乱歩がアリスの声に反応する。
「乱歩兄の推理力は異能力者なんかよりよっぽど凄いよ。たとえ異能力が有ったって、其の力で犯人が判ってたって、私はあの時、如何することも出来なかったんだから!」
満面な笑みで乱歩に話し掛けるアリス。
アリスの頭をワシャワシャッと撫でる乱歩。
「好く解っているじゃないか!流石、アリス!僕の弟子なだけある!」
乱歩が何時もの調子に戻り、福沢は少しだけ微笑んだ。
「!」
ピクリとアリスが何かに反応する。
「じゃあ私はもう帰るよ。面倒なのが駆けてきちゃったみたいだし。」
「「!」」
微かにだが、確かにサイレンの音が聴こえる。
「待て。此のまま、黒い社会に戻る気か。」
アリスが倉庫扉の方に歩みを進めるのを福沢が制止する。
「私は陽の当たる処で生きる術を持ち合わせては無いから。」
「一緒に来ればいいよ!君はもう僕の弟子なんだから!」
乱歩もアリスを止めに入る。
その言葉に一瞬、動きを止めたアリス。
しかし、首を横に振って乱歩を見た。
「一寸、やらないといけない事があるから。でも、それが全部片付いたら…その時は」
サイレンの音が段々と近付いてきている―――。
「今、起きている同傘下組織の抗争だけど。」
「「!」」
突然の話題に驚く2人。
「まぁ武装探偵社は大丈夫だと思うけど『パラサイト』に気を付けてね。」
「『パラサイト』?」
「情報屋なのにタダで置いていくの?」
「乱歩兄に助けてもらったからね。でも後は自分達で調べて?」
詳しい内容は話さず、『パラサイト』とだけ言い残して、手を振りながらアリスは倉庫扉から出て行く。
「警察だ!」
警察が踏み込んできたのはアリスが出たとほぼ同時だった。