第1章 悲しい別れ
「シェリーが帰ってきたら、ごめんなさいとお帰りなさいって言うんだ。それで、大好きなケーキを一緒に食べるの。貴方の分も用意してあげるね」
この間食べたケーキ美味しかったなと思い出して愛紗は頬を緩ませる。
「昨日のお店の良かったよね。シェリーも好きかな。それとも一昨日のがいいかな?今日のも楽しみだね!」
声をかけられた男も笑う。
愛紗は基本的に組織の外へは出ない。
仕事は常に与えられた仕事部屋だけで行われた。
セキュリティの厳重な愛紗の城は、基本的に人の出入りが少ない。
ゆえに彼女は日常的に顔を合わせるのは世話役くらいなものだ。
愛紗の行動に身の回りの世話をする男もそれに追随する。
だからケーキなど食べ物を差し入れるのは、それ以外の構成員だった。
この構成員と愛紗が顔を合わせる事は少ない。
それも上の指示だ。
幼い頃から狭い行動範囲で生きてきた愛紗には組織が全てに見える。
だから大事にしている。
一体、何のために活動しているかも知らずに。
あの方の役に立つ、父と母を継いでいるその意識だけで、ここで働いている。
与えられたケーキを食べられるようにするのは男の仕事だ。
愛紗は1人ではケーキに着いたフィルムを外す事も出来ないし、紅茶をいれるためのお湯だって沸かす事が出来ない。
ボタンを押せば済むはずの、風呂に湯を張るのも愛紗はしない。
服も1人では着替えられないし、風呂も面倒だからと男に入れてもらい洗ってもらう始末だ。
愛紗は自分では出来ないのに風呂に入るのは好きだった。
2年前に世話役になった男は面倒見が良く愛紗は大好きだ。
声は聞けないが優しそうな雰囲気で、親し気にしてくれる所が気に入っている。