第5章 スペア
その後は大人しく風呂に入れられた。
柔かいスポンジで丁寧に洗われるのは結構好きだった。
世話役は直接愛紗の肌に触れる事はあまりしないが、髪を洗う時とジンの残滓をかきだす時だけ直接触れた。
「んっ、ふぅあっ」
機械的にかきだす世話役だが、異物感に愛紗は身体を震える。
淡々と作業を終えると、世話役はいったん風呂場から出る。
湯につかれという事だ。
「ふ~、いいお湯だ」
湯船にはバスボムが入れられており、ピンク色に濁っている。
いい香りがしてつい鼻を近づけすぎて、おぼれかけた事のある愛紗の為にか、匂いはほとんどしない物だ。
風呂に入るのは好きだった。
長く入る事が出来るように、少しぬるめの温度にするなど気遣いの出来る世話役だ。
彼は本来はこんな仕事をする人間では無い。
少し元の任務を続けるには厄介な事になったから、愛紗が引き取っただけだ。
それは愛紗にとっても運のいい事だった。
世話役が幹部に上がった時から目をつけていたのだから。
彼の鼓動を聞くのが好きだ。
生きていると実感できる。
まだ生きていると。
自分はどうだろう。
心臓が止まったら、誰も助けてはくれない。
それが出来るのは自分だけだから。