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黒の組織の天才医師()

第5章 スペア



ライはスパイだったという。
その後にスパイだと疑われたキールに撃たれ、最後は車が炎上して死んだとジンから聞いていた。
その話を聞いた時、まるでピスコのようだなと思った。

ピスコは裏切り者ではなく、ただ任務を失敗したに過ぎなかったけれど。
死体を調べたのは愛紗ではない組織の者だった。

だから愛紗は、はじめ手直しをして葬式をしようとしていた。
黒こげの中から、使える細胞を取り出し、培養して綺麗にするつもりだった。
顔見知りが死ねば愛紗は悲しい。

そこで、気づいたのだ。
この黒焦げの死体はライではないと。

他に焼かれて死んだ人間がいて、取り違えたのだと結論つけた愛紗は、ライの葬式を取りやめた。
元々裏切り者であったライの葬式をしようとする人間は、変わり者の愛紗の他にはいない。

死体を見なければ、愛紗は大して悲しくない。
きっと死んでいなから、帰りを待てばいい。
シェリー程親しくなかったライの失踪はそれ程愛紗を傷つけない。
むしろ宮野明美を助けに来て来る、そんなヒーローに対する期待のようなものを生んだ。


「テメェが葬式をしねぇとは、珍しいな。どういう心境の変化だ?」
「大人になったの」

葬儀を取りやめたという話を聞きつけて自室を訪れたジンに愛紗はたんたんと答えた。
服は既に世話役に着替えさせてもらっていた。
ジンの訪問に少し嫌そうな顔をした世話役だが、一応のもてなしの為に茶を用意しに少し離れる。

世話役など気にかけず、ジンは愛紗の前に立ち見下ろす。
組織の人間が死んだ時とは違う反応をしている愛紗に、ジンは少し驚いていた。

「ようやく裏切り者を切り捨てられるようになったか」
「そうなのかもしれない」

澄ましたような顔で答える愛紗にジンは喜びを感じる。
甘ちゃんな考え世界で生きている愛紗の心変わりだ。

黒の組織の中で生まれたくせに、守られて育てられたせいで中身は全然相応しくない。
正そうとしても中々染まらず苛立ちを覚える相手が、近づいてきた。
その事実はジンは沸立つ物を感じる。

「今日は優しくしてやるよ」
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