第4章 可哀想な子供
「でも良かったわね。彼女はあんまり察しが良くないから、きっと江戸川君の事も分からないわ。もう1人の方もおそらくは。どれだけ愛紗が弄ったのかは分からないけれど」
「しかし声をかけようと思ったけど逃げられちまったのは惜しかったな。あれだけマスコミが居たのに逃がしちまうなんて」
「組織としても失いたくない人間よ、サポートするのは当然でしょうね」
「せめて髪の毛でも取れればよかったんだけどな。爆弾処理っつー緊迫した状況じゃな」
「無理よ。言ったでしょ、彼女は組織で生まれ育ったって。戸籍なんてないのよ」
「は?」
「言った通り、組織の力でアメリカに行ったりはしていたけど、書面上は存在しないの。天査愛紗なんて。私達と同じようにね」
志保が意味ありげに笑う。
灰原哀も江戸川コナンも確かに存在しない存在だ。
だがそれは仮の姿。
本来の姿である宮野志保も工藤新一も存在している。
「その事、その愛紗は不満にはならないのか?」
「言ったでしょ。知らないのよ、彼女は何にも。自分がどんな扱いを受けているのかなんて」
可哀想な子供。
コナンの中で愛紗はそんな印象になった。
閉鎖された空間で生きてきた存在。
だとすれば付け入るチャンスがあるはず。
「無理よ。彼女、組織を家だと思ってるの。組織の人間が死ねばそれはそれは悲しむけど、組織を壊そうとしている人間がいたら、受け入れないわ」
「どうかな。愛紗は白い。そんな印象を受けたぜ」
「そうね。黒よりは白が似合いそうな子ね」
だったら変えられるんじゃないか。
「どうかしら。彼女、本当に外に出るタイプじゃないはず。何か心変わりでもあったのかしら?」
「アイリッシュの弔いって言ってたからそうなんじゃないか」
「でもそのアイリッシュと関係あったかしら。愛紗は基本的に幹部を対応する医者だけれど、日常の鈍臭さもあってあまり信用されてないの。だから組織で知り合いも少ないはず」
「アイリッシュは知ってたんじゃないのか?俺の事を工藤新一だって見抜いたくらいの男だぜ、愛紗が実力者だっていうのも知ってたって可笑しくない」
コナンの指摘に志保は考え込む。