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黒の組織の天才医師()

第1章 悲しい別れ



それゆえに愛紗は、一員が亡くなれば泣いて過ごし、裏切り者が出ればまた戻ってきてくれると、信じて待っている。
組織が帰るべき家だと疑わない。
仕事の都合上、愛紗が担当するのは幹部クラスの構成員ばかりだが、顔見知りが死ねばたとえ裏切り者として処理された人間であろうと葬式には必ず参加している。

裏切り者は葬式も行われない。
末端は特にそうであるし、幹部も同じことだ。
ただ幹部が希望すれば葬式は執り行われる事はある。

愛紗は顔見知りが死ぬたびに葬式を執り行う事を希望してきた。
そうしないと死を受け入れられないからだ。
遺体の入った棺が土に埋められてようやく、死と認識する。

愛紗の死生観は少し人よりずれていた。

葬式には毎回参加すると言って裏切り者の死を待っている訳では無い。
生きて帰って来る事を望んでいる。
今も望んでいる。

特に強く帰りを待っているのはシェリーだ。
歳も近く、同じように両親が組織の一員だったシェリーは愛紗と育った環境が近く、必然的に仲良くなった。
幼少期はほぼ一緒に過ごした幼馴染だ。

だからこそ、シェリーの姉である宮野明美が亡くなったと聞けば泣いて暮らしたし、当然のように葬儀の希望を出した。
葬儀が行われたのは、死から一週間程たってからだ。
裏切り者の葬儀に参加するものは少なく、シェリーと愛紗、そして愛紗の世話役しかいなかった。
悲しみにくれるシェリーからどうしてお姉ちゃんを助けてくれなかったのかと、悲鳴交じりに問われ、愛紗は返す言葉が無かった。

愛紗とて助けたい気持ちはあった。
しかし幹部でない限り、助けるのは許可されていなかった、というのが全てだ。
シェリーもわかっていた事だが、言わずにはいられなかった。
愛紗はその力があった。

救えなかった事は愛紗だって悲しい。
だから可能性を残そうとは努力した。実るかは定かでは無い。

実の妹であるシェリーの悲しみはそれ以上だと分かっていた。
研究を拒否して監禁されたと聞かされた時は心配して、差し入れを運んだ。
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