第1章 悲しい別れ
愛紗は医師として組織に所属している。
外科的治療は神がかり的とされ、あの方よりコードネームを与えらた幹部だ。
両親が既に黒の組織の一員であり、生まれた時から組織の人間だった。
だから組織にいる事に何の疑問は無いし、嫌とも思ってはいない。
どちらかと言えば組織は家であり、大切にしたいものだ。
そのうえ両親も物ごころがついた頃に亡くなった訳だから、なお一層、組織が家という認識が強くなった。
自分のいる所は組織のみ。
それ以外の可能性を知らないのが天査愛紗。
コードネーム、ピンクレディだった。
あの方は愛紗にとって兄弟であり親であり、また先生でもある。
だから組織を構成する人間も同じように家族なのだ。
それゆえに愛紗は、一員が亡くなれば泣いて過ごし、裏切り者が出ればまた戻ってきてくれると、信じて待っている。
組織が帰るべき家だと疑わない。
仕事の都合上、愛紗が担当するのは幹部クラスの構成員ばかりだが、顔見知りが死ねばたとえ裏切り者として処理された人間であろうと葬式には必ず参加している。
裏切り者は葬式も行われない。
末端は特にそうであるし、幹部も同じことだ。
ただ幹部が希望すれば葬式は執り行われる事はある。
愛紗は顔見知りが死ぬたびに葬式を執り行う事を希望してきた。
そうしないと死を受け入れられないからだ。
遺体の入った棺が土に埋められてようやく、死と認識する。
愛紗の死生観は少し人よりずれていた。
葬式には毎回参加すると言って裏切り者の死を待っている訳では無い。
生きて帰って来る事を望んでいる。
今も望んでいる。