第3章 おでかけ
先日の詫びのつもりか、雑誌を見て可愛いと話した事のある流行りのブランドの服を一式ジンが持ってきた日、愛紗は普段より上機嫌だった。
だからだろうか、いつもとは違う事を言って来たのは。
自由行動は制限されている訳ではないが、愛紗は基本的に自室と与えられた仕事部屋にしかいない。
テレビを見て興味を持っても実際に自分が行くとはまではには至らなかった。
だから出かけたいと言われて、世話役は少し驚いた。
世話役となって2年程たったが、こんな事は初めてだ。
今日は休んでお出かけする!
と意気込む愛紗に宥めるような仕草をするが、愛紗はすぐに懐からスマホを取り出した。
どこかに話をつけると、世話役に向かって明るく笑った。
「お休み貰えたよ、出かけよ!」
そんなにすぐに休めるものかと世話役は驚く。
組織は今は大掛かりな事をしていないのだろうか。
声が出ない事が悔やまれる。
意思を表示できない自分を歯がゆく思う。
冬であるために、多めに服を着込ませる。
普段は空調の効いた部屋にしかいない愛紗だから、世話役がこんなに着込ませる事を不思議そうにしていた。
施設から出ない愛紗は冬が寒い事を忘れがちだ。
「行きたい所、あるんだよ」
そう言った愛紗を目的地まで連れてきたのは世話役だ。
監視は居ない。
アイリッシュの亡くなった場所に行きたいらしい。