第2章 人殺しの罪
「ピスコの事、ごめんなさい」
「気にするな。あの方の許可があったのではな。俺も気にしない」
そういうが、アイリッシュは堪えていた。
父のように慕っていたピスコの死は、やはり辛い。
それも遺体は回収できず、炎に焼かれてしまった。
せめて綺麗な形でいて欲しいではないか。
組織内で執り行われた葬式ではピスコは生前の姿をして棺に入っていた。
愛紗が皮膚を培養し、焼け焦げた遺体に張り合わせたのだ。
顔のパーツも培養し作りだしたせいか、まるで寝ているかのようなピスコの姿にアイリッシュは目頭が熱くなった。
「まるでただ眠ってるみたいだ。感謝してるぜ、ピンクレディ」
「そんな事ないよ」
ピスコの葬列に参加したのは、アイリッシュと愛紗、それに世話役だけだった。
ピスコを送ろうと思ったのは。
裏切った訳でもないのに、こんなに少ない。
それだけ組織はミスした人間に厳しい。
アイリッシュはどうにかして、ピスコを死においやったジンにやり返そうと考える。
隣で喪服を着て涙を流している愛紗を見やる。
優しい子供。
この組織に生まれ育ったというのに、黒が似合わない。
組織の人間は基本的に黒を着込んでいる。
それは愛紗も例外では無かったが、黒を着ていても心は白いままだ。
「お前もそう泣くな。また使い物にならなくなると嫌味を言われるぞ」
誰かが死ぬたび、愛紗は泣く。
そして仕事が手につかなくなる。
いつもの光景で、組織の人間も慣れている。
医者は愛紗だけでは無い。研究者も。
まだ子供の域を脱していない、愛紗よりもっと年嵩の医者の方を信用して、そちらに行く構成員もいる。
最も、愛紗が見るのはコードネーム持ちの幹部だけだ。
「親父の事は仕方がない。ピンクレディ、お前は特別だ。腕に誇りを持て」
「アイリッシュ……うん、ありがとう」
この時、愛紗は喜んでいた。
ピスコが死んだ悲しみもあったが、葬式が始まり、埋められていくピスコを見れば受け入れなくてはならない。
葬式に参加すればけじめがつけられる。
あそこに入ってしまえば、生き返らない。
それでも涙は止まらなかった。
葬式というのはいつも悲しい。
生前のピスコを思い出して、また泣いた。
自分の葬式に人は来てくれるだろうか。