第2章 人殺しの罪
まだ若い愛紗が組織の幹部いる理由は、その手術技術の高さからだ。
多くの構成員は知らない事だが、唯一の特別な技術。
それは死者の蘇生だった。
臓器などの損傷で死んだ人間ならば、死後の移植手術で、蘇生出来る程の技術がある。
止まった心臓を再び動かす技術は組織の中でも幹部の中でも一握りが知る情報だ。
それ以外は凄腕の外科医、という事実しか知りえない。
過去に実績がある。
自分の技量に過信している訳では無いが、そのために愛紗は少し死を遠くに感じているのだ。
そして死ぬと受け入れられずに泣き続ける。
悲しみを乗り越えるためにしばらく使い物にならなくなるのは、あの方にとっても本意ではない。
もっと強くなくてはならない。
助からないアイリシュに蘇生行為が命じられたのは、そのせいだった。
そしてあの方は愛紗に初めての殺人を経験させた。
「うぅうう、アイリッシュ……うぇえぇええ」
処置を終え、まるでただ眠っているだけのようなアイリッシュに愛紗は縋り付いて泣いた。
世話役の男はそれを心底、同情していた。
胸に耳を教えてても、鼓動は聞こえない。
その事実に愛紗の悲しみは増した。