第1章 出会いは突然に
けれど目の前の彼はそれを知ってか知らずか、私の傍を離れようとはしなかった。
「でも……女性一人じゃ彼女を運ぶことなんてできないでしょう?手伝いますよ。」
自然に背中に回される手。
体を支えるだけと分かっていても、名も、ましてや顔さえ分からない男の人に触られるのは気分のよいものではない。
この人に悪意やそういう類いのモノは感じられないとはいえ。
私は丁重にお断りするべきだと判断し、口を開きながら彼の方に目を向けた。
「あのっ……本当にへい」
平気ですから______そう紡ごうとしたのに言葉になることはなかった。
しゃがみこんだことで見やすくなった顔。
それを照らすコンビニの明るい蛍光灯。
本当はもっと早く判断できていたはずだったのに。
「のぶ、君……?」
言いたかった言葉の代わりに出てきたのは、私の大好きな声優さんの名前。
相手も驚いたのか目を見開き、しばし沈黙が流れた。
しかしその沈黙がそれが事実ということを裏付けていて。
目の前のことが現実だと色付いていくにつれて顔に赤みが広がっていく。
状況の飲み込めないユリは不思議そうな顔を浮かべているが、この時の私には彼女に気を使う余裕さえ残されていなかった。
何て言えばいいの。
何を言えばいいの。
あぁ、それより何でこんな格好の日に限って。
もっと可愛い服を着て、先月買った真珠がひとつ付いたアクセサリー着けて、万全の状態で会いたかったのに_____……。
「のぶ、どうした?」