第1章 出会いは突然に
「ホントに平気だよ。ここまで走ってくることも出来たんだから。」
歩くくらいなら楽勝だよ。
そう言ってにっこりと笑顔を返せば、ますますユリの眉が下がる。
彼女は一緒に帰る選択肢を捨ててはないらしい。
「私、店長に一言いって」
「だめ、夜中はそんなに人がいないでしょう。二人は常駐してなきゃダメなんだから、ユリが外れちゃったら困るでしょ。」
私は人差し指をユリの唇の高さに持っていき、言葉を続けさせない。
ユリは優しい子だ。
ここで私が甘えたらいけない。
でも…、とまだなにかを言いたげにこちらを見るユリ。
心配性だなぁ、ゆっくり歩けば大丈夫なのに。
ホントに優しいんだから。
「平気平気!徹夜はなれてるし頭痛もよくあるし平気だよっ!」
その証拠にほら、そんな思いで私は勢いよく立ち上がった。まとめていない髪がふわりと靡く。
あ、これは行ける。
そう確信した瞬間_________。
目の前の景色がぐにゃりと歪んだ。
そしてその景色は元に戻ることなくだんだん白みを帯びていく。
あ、れ…?
足に力が入らない。
目の前が真っ白に染まってく。
声が遠くなっていく。
これは、やばいかも…。
わたしの体は傾く。
うっすら見えたのは店内の蛍光灯の灯り。
かすかに耳に届いたのは
______大好きな彼の声だった。