第16章 猫と私①
『研磨に、会いたいな…』
「…おれも同じ事思った」
「『………………』」
この無言が意味するのはきっと同じ。
色んな事、考えてる。
明日の事もあるから迷惑かな。とか、おれもだけど結構その辺り気になってる。
それでも……。
『今から会えない?』
って、同じ事考えてると思うのに…言えない辺りおれもあやねもまだ臆病なんだろうね。
この静けさはきっと数秒の無言なのに、長く感じてちょっと困った。
言おう。
そう決意めいた気持ちになる頃にはスマホからあやねの声が聞こえていた。
『…会いに、行ってもいい?』
様子を伺う声に、おれは口角が上がる。
「おれも同じ事言おうとした。外だいぶ暗いからおれがそっち行くよ。家?」
『もう少しで家に着く…じゃあ待ってる』
「待ってて。すぐ行くから」
通話を切ると俺は制服を着替える事無く家を出た。
あやねの家まで自転車を飛ばせばすぐ。
生温い夜の風が身体を撫でる様にぶつかり、自転車を回す音がやけにはっきりと聴こえた。
それだけ焦ってこぐ自分がいるんだと思う。
少しでも早くあやねに会いたいから。
荒くなる呼吸にじんわりと汗が滲む頃、見慣れたあやねのアパートに着いて自転車を乱雑に停めた。
焦る気持ちを抑え、乱れた呼吸を整える為に深く吸って深呼吸をしてからいえのチャイムを押す。
部屋の中から微かに聞こえる返事はどこか慌ててるような気がして、おれと同じだって笑えた。
ドアの前でバタバタと大きな音がするとそのままドアが大きく開かれて、見慣れないあやねがそこにいた。