第15章 *黒猫の想い人【番外編】
「あやねーキスしてー」
棒読みで言うと呆れたように笑う。
「何それ」
「あやねとキスしたいー」
少しでもこの嫌な空気を変えたい。
少しでも俺を考えて欲しい。
少しでも……あやねの温もりを忘れたくない。
「もう…」
そう言って俺に近付いたあやねはそっと優しくキスをしてくれた。
ゆっくりと離れるあやねの唇、それが嫌で俺はあやねの頭に手をやりもう一度唇を奪い舌を入れ離さないつもりであやねを抱きしめる。
いつもなら文句が出そうなのに、今は素直に俺を受け入れる事に頭の中で矛盾する事を願っていた。
いつものように俺を押しのけろ。
いつものように“また”があるって思わせろ。
呼吸もままならない俺達は唇を離し肩を大きく揺らして空気を吸い込む。
潤む瞳に映る自分の顔は酷く余裕が無い。
「あやね…」
「……クロ、もう終わろ…」
そう簡潔に別れを言うあやねはいつもと変わらず綺麗だった。
一度と言っていた俺達の関係は俺の狙い通り一度では終わらなかったが、俺の願い通りには上手くいかなかった。
やっぱ、人生はそう上手い事だらけじゃないんだな。
俺を好きになってくれればなんて甘かった。
「…あやね俺と付き合って」
「ごめんなさい」
即答かよ。
「クロは大切な幼馴染だよ」
それじゃ嫌なんだよ。
「これからは進級するし勉強も頑張らないとね」
もう先の事考えてんのかよ。
俺は目の前の事で頭いっぱいなのに。
「クロ…」
あやねに呼ばれる声がこんなにも好きだってのに…切ねぇな。
「おう、受験生だもんな。頑張れよ」
精一杯の応援の言葉を言えばあやねが笑った。
「俺また誘うかもよ?」
「はは、懲りないなー!断ります!」
「そうか?」
「うん!もう元の幼馴染に戻るんだから絶対に無いよ!」
俺はあやねの頬に触れ最後の温もりを感じようとしてニヤッと笑ってやった。
「絶対。なんてこの世にはねーんだよ!」
そう言ってキスしてからもう一度笑う。
「あやね“また”な」