第13章 猫⑬
ホテルの中に入ると男に抱えられたあやねを見つけた。
怒りが先に出てて頭で考えるより先に身体が動いてあやねの腕を引っ張ると、バランスを崩した男があやねを離す。
おれはあやねを抱きとめると、驚いた顔をさせる男が『何すんだよっ!!』っておれに殴りかかろうとした。
ゆっくりと動いて見える男の腕、なのにおれは殴られる気がしなかったんだ。
ぜったいに。
「何すんだっ!!はこっちのセリフだろっ!!!」
クロがすごい勢いで男めがけて飛び蹴りを入れると豪快に男が吹っ飛んだ。
大きな音を立て飾られた花瓶に当たる男が花瓶を割るとスタッフが出て来た。
「ちょっ!!警察呼ぶよ!!」
「ああ呼べよ!!!この男が女に変なもん飲ませてんだよ!!!」
クロがすごい剣幕でスタッフに言うと、スタッフはいまだに嗚咽をはいて倒れる男を見ていた。
おれは腕の中にいるあやねを座らせる。
意識がはっきりとしないあやねの顔色は悪く、顔にかかる髪を優しくとる。
「遅くなってごめんね」
「ん…研磨…」
目を薄っすら開けるあやねが突然おれに抱きついた。
「大丈夫??」
「ごめん、ちょっとダメ…かも、眠いし気持ち悪い…」
そのまま意識を無くしたあやねに焦るとクロが男の胸元を掴んで何を飲ませたか聞いていた。
男の話では睡眠薬を飲ませ、無理矢理自分の物にするつもりだったみたい。
男の話を聞いていたスタッフも事件性がありそうだと警察に連絡しようとしたけど、男が泣きながら謝ってあやねの前から消えるって言うからあやねの判断に任せる事になった。
帰える為にクロが眠るあやねを抱き上げ先に歩く姿を、おれは何とも言えない気持ちで見て後を追う。