第8章 *猫⑧
シャワーの音が聞こえてくる中、私は脱ぎ捨てられたクロのジャージを拾い綺麗に畳んで置く。
そこで、研磨からのメールを読む前だった事を思いだしメールを開くと。
『話したい』
たった一言のその文は、自分で思うよりはるかに強烈なものだった。
すぐにメールを作成して送る。
『遅くなってごめんね。話したい事って何かな?』
『いいよ 』って素直に言えない私は臆病だな。
送信してすぐに研磨から電話がかかってきた。
クロの時と同様に焦って通話を押すと『あやね』って名前を呼ばれる。
それだけで私は破裂しそうな程心臓が早まっていた。
「研磨、連絡遅くなってごめんね」
『別にいい。それより、今家?』
「うん…」
『行っていい?』
「えっ!?だ、だめ!!」
思わず即答で答えてしまったけど、今研磨がうちに来てクロを見たらって思うと、心が騒めく。
『…クロ?』
「………」
何も言えずにいると『分かった』って耳元から聞こえる。
『また今度、会って話したい』
「…うん、分かった」
『じゃあ、またね』
「またね…」
時間にしたらきっと5分も無いぐらいの内容。
それなのに凄く、長く感じた。
今だに早く動く心臓に、握ったままのスマホを押し付けていた。
耳元で聞こえた研磨の声を思い出すと、研磨も男なんだよねって…変に意識をしてる。
どんな表情をさせて私に電話してたんだろ。
どんな気持ちで私に電話しようと思ったんだろ。
小さい頃からの幼馴染なのに、研磨の事全然分からない。
分からないから知りたいって強く思うんだと思う。
何でこんなに頭の中ぐちゃぐちゃなんだろ。
『あやねは誰を見てるの?』
ぐちゃぐちゃなはずなのに……研磨のあの言葉だけが今、はっきりと頭に浮かんだ。