第3章 猫③
目の前で何かを置くあやね、さすがにこのままなわけにはいかないから、おれの方から声を掛けた。
「……あやね」
「へっ!?あっ!……研磨いたんだ」
「いた…気付かなかった?」
「うん、ごめん。そうだよね。クロの部屋に研磨だけいてもおかしくなかった…クロは?」
「外、誰かに電話かけてた」
「……研磨元気?」
突然会話が変わって、当たり障りない会話とどうしたらいいか分からない戸惑いで頷く事しか出来なかった。
「そっか…元気で何よりだね」
「……あやねは?」
おれが聞き返すと一瞬驚いた顔をしたが、すぐに柔らかな笑顔をおれに向けて嬉しそうに『元気だよ』って答える。
そんな柔らかな笑顔、初めて見た気がする。
元々綺麗だとは思ってたけど、あやねがこうして笑う顔はすごくかわいいと思った。
「研磨何してるの?」
「えっと、RPGで…モンスター倒して進むゲーム…」
「へ〜、私も昔はゲームしてたけど最近してないなぁ。ちょっと見てもいい??」
「…いいよ」
おれの横に移動して座るあやねにおれの心臓が早まるのを感じる。
意識しないように画面に集中して操作していると、画面を見る為に近付いたあやねの髪が手の甲に触れた。
思わず画面からあやねに視線を移すと、黒髪を耳にかける指先に目がいく。
指も細くて長い。
男とは全く違うその指先、髪から香るシャンプーの匂い。
自分とは全く違うあやねに思わず見惚れてた。