第3章 猫③
「??研磨、動き止まってるけど平気?」
ゲームをする手が止まった事で振り返るあやねは昔とは違った。
同じだと思ってた……そこにいるのは高校生でもない、大人の女性で……おれの知らないあやね。
おれに頭を傾げる拍子にあやねの髪がまた手に触れる。
その髪を見ていたら、無意識に髪先に触れていた。
「…柔らかい」
「えっ!……そう、かな?」
「あっ!ごめん…」
あやねの声でパッと髪から手を引く、おれ……あやねに触れてた。
顔が熱くなってあやねを見れない。
すると、突然あやねの手がおれの髪に触れて何度か撫で始めた。
「研磨の方が柔らかいよ…」
あやねを見ればまた微笑む。
おれはすぐに俯き動揺する気持ちを誤魔化す為にゲームを再開する。
恥ずかしさと撫でられる心地よさ、あやねとこんな事するなんて少し前のおれは思わなかったはず。
「研磨…」
切なげな声でおれの名前呼んだあやねはすぐに立ち上がった。
「あやね?」
「研磨と話せて良かった。私もう行くけど、また会った時にゆっくり話せたらいいな」
「…うん、気を付けて帰りなよ。クロ外にいるから送ってもらうといい」
おれがそう言うといつもの困った笑顔になり『ありがとう、またね』と手を振って部屋から出て行く。
あやねのいなくなったクロの部屋。
邪魔したんじゃないかって不安にもなるけど、あやねの髪に触れた事を思い出し部屋の窓からあやねが道を歩く後ろ姿を確認する。
「……クロに会ってかないの?」
自分の中で何かがずれるような感覚。
既に暗闇に消えるあやねに心で問う。
クロの事好きなんじゃ無かったの?って。