第19章 猫と私④
息を切らしながら慣れた景色を流れるように走る。
あやねの部屋の前にに着いた頃には部活でかくぐらいの汗が頬を伝っていて、ベタつく汗を制服で乱暴に拭いチャイムを押した。
直ぐに中から声が聞こえると、また確認もせずにドアが開いたので、何度注意しても直らないな。なんて思えるぐらいには余裕ができていた。
「研磨いらっしゃい」
「はぁ、ちゃんと誰か確認してね」
「あ、ごめん…走って来たの?」
「うん…走った」
「シャワー使う?」
「あとで、今はあやねに言いたい事ある」
おれの顔を見ていたあやねは、おれの手を掴んで家の中に入れるとゆっくりと閉まるドアの音がやけに大きく聞こえた。
「あやね、行かないで」
部屋の中までは待てなかったおれがそう言うと、玄関に背を向けていたあやねがおれの方を向き直したから、言葉が足らなかったなって思い言い直す事にした。
「あやね、今日…行かないで…」
あんなに自信を持ってたのに、言い直したおれの声は自信なさげで弱々しく感じた。
何も言ってこないあやねにどんどん不安になると、あやねが突然おれに抱きついてきて驚いた拍子に思わず変な声が出て恥ずかしかったけど、『良かった…』と言うあやねはおれ以上に弱々しくて、泣いてる?って思うぐらいだった。
「研磨が話したいって、言うから…もしかしたらって不安で…怖かった」
抱きつくあやねの背中に腕を回しおれも抱きしめる。