第2章 フライングゲット〔白石蔵ノ介〕*
ビキニを買ったことを報告したら、俺にも見せてって蔵が聞かなくて。
お姉さんばっかりずるいわ、俺も見たいのに、と拗ねた口調が珍しくてかわいかったから、つい乗せられてしまった。
明日のデートを前に、部活が終わった蔵の部屋で水着に着替えたのが、ついさっき。
着替えが終わるまで廊下に出ていてもらった蔵に「もういいよ」と呼びかけて、ご丁寧に「じゃーん」なんて効果音まで口に出してドアを開けたのに、この仕打ちだ。
もう、お姉ちゃんってばひどい。
似合わないなら似合わないって、太りすぎならもっと痩せたほうがいいって、いつもみたいにはっきり言ってくれればよかったのに。
心の中でお姉ちゃんに八つ当たりしてみるけれど、もう遅い。
ちらりと蔵の表情を伺うと、眉間に見たこともないくらい深いシワが刻まれていた。
それを見たら、なんだか寝ているところにバケツの水をかけられて起こされたような気分になって。
私のささやかな浮かれ気分とちっぽけなプライドは、粉々に砕け散ってしまった。
時間にしたら一分と少しくらいなのかもしれないけれど。
今の私には一時間に相当するくらい、長い長い沈黙。
似合ってる、じゃなくてもいい。
せめて何か一言欲しかっただけなのに。
これじゃただの公開処刑だ。
エアコンの機械音だけが響く。
こんな音、普段は気にならないのに、と思ったら少し笑えた。
蔵に小さく「もう着替えるね」と言って。
蔵にもう一度出て行ってもらおうとドアに手をかけた、瞬間。
背中にぬくもりが降ってきて、見慣れた包帯の腕が腰にくるりと巻きついた。
あかんわ、見とれてもた、と耳元には吐息が落ちてくる。