第1章 太陽とギンギツネ〔仁王雅治〕
「あーあ…夏っぽいこと、したいなぁ」
ベッドにもたれてひとりごちると、居心地悪そうに雅治が布団の中でもぞもぞ動く気配がする。
分厚いカーテンがかかった雅治の部屋は、夏の鋭い日差しから完全に遮断されている。
腕を伸ばしてカーテンをちらりとめくると、アスファルトの熱気で陽炎が見えた。
「こんなクソ暑いのに外出たら、溶けるぜよ」
「そんなことないよ、この暑い中毎日テニスしてるんでしょ」
「…ピヨ」
都合が悪くなると、よくわからないことを言ってしれっとごまかすのは、雅治の癖。
はぐらかされたのが悔しくて、布団から飛び出した雅治の髪を少し引っ張った。
動物の尻尾みたいだ。
暑いのが苦手なギンギツネあたりかな、なんて考える。
「ねえ、出かけようよ」
「んー? 出かけて何がしたいんじゃ?」
「何って…ほら、ギラギラの太陽と戯れるの」
「ほお」
「せっかく夏なんだから、いっぱい汗かいてさ」
「…汗、かきたいんか?」
私の手の中にあったギンギツネの尻尾がするりと逃げて、代わりに雅治の顔がずいっと寄ってきた。
テニスをしているときのような、嬉しそうな表情。