第4章 ホーンテッド・スクール〔日吉若〕
みんなから「いってらっしゃーい」「頑張れー」と声援を受けながら、一組目が校舎へ入っていく。
女の子の方は「やばい、こわーい」と薄っぺらな言葉を口にして笑いながら、ペアの男の子の腕に絡みついていた。
窓からは時折、懐中電灯の黄色く小さな明かりがひとつ、不規則にふわふわと動くのが見える。
みんなが注目する中、教室の電気がパッパッパッと三回瞬いて、「おおー」と自然発生的な拍手が起きた。
五分ほどして無事戻ってきたトップバッターたちは、口々に「おつかれさま」「どうだった?!」と手荒い歓迎を受けていた。
同時に懐中電灯を手渡された二組目がスタートする。
この調子なら、私と日吉に順番が回ってくるのはだいたい一時間後だ。
改めて周りを見回すと、みんな見慣れない私服姿。
夜の学校という非日常も重なって。
肝試しへの少しの不安と、それを大きく上回る期待と昂揚感、そして背徳感。
熱帯夜の運動場の真ん中には、蚊取り線香の煙と一緒に、そんな空気が漂っていた。
もちろん私の中では、不安と恐怖がほとんどを占めていたけれど。
ちらりと日吉に視線を投げる。
ポケットに手を突っ込んで、男の子たちの会話に加わっているような、そうでもないような、微妙な立ち位置。
白いリネンのシャツにジーンズのシンプルな出で立ちが、センスと育ちのよさを物語っていた。
つい触れたくなるくらいサラサラの髪につい目がいくけれど、よく見ればシャープで整った顔立ちをしている。
性格と口の悪さを直せば、モテるのに。
いや、もう現にモテているんだったか。
肝試しのペアの座がうらやましがられるほどに。
オークションに出品すれば高値で売れると確信するくらい、背中に感じた女の子たちの眼差しは熱烈だった。
誰か私の代わりに行ってよと叫びたくなる。