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ナツコイ【庭球】

第4章 ホーンテッド・スクール〔日吉若〕


自分たちのクラスに行くのは百歩、いや千歩譲って認めるとして、理科室にまで寄るなんて。

恐怖だ。
もはや無差別に暴力的な。
そういえば企画を考えたやつは誰だ、私のことを殺す気なのか。

一人黙って青ざめる私をよそに、きゃーきゃーと盛り上がるクラスメイト。
みんなどことなく嬉しそうにすら見えてきて、一体どういう神経をしているのだろうと考えたら、またため息が出た。


コピー用紙を小さく切り折りした即席感あふれるクジ引きがまわってきて、適当に真ん中あたりにあった一枚を取る。
赤いボールペンで手書きされてあった数字は「11」。
クラスは四十人、男女半々だから、順番はちょうど真ん中あたりになる。



「みんな引いた? じゃあ1番の人出てきてー」

委員長が手際よく、同じ番号の人を呼び出してペアを組ませていく。
顔ぶれを見ては「おおー」というお決まりの感嘆詞が行き交う。

「11番の人ー」

集団から一歩前に出ると、私の左側で同じ動きをしたのは、日吉だった。

女の子たちからの一際大きなため息と悲鳴、そして潜めたつもりなのかもしれないけれど丸聞こえの「いいなあ」「うらやましい」という呟きが、全部ごちゃ混ぜになって耳に届いた。
そうか、日吉って人気があるのか。

私は無意識のうちに変な顔をしてしまっていたらしい。
日吉はあからさまに眉根を寄せて視線を外して、飛び交う冷やかしの中「悪かったな、俺で」と私にだけ聞こえる声で言った。
その指先に挟まれていた小さな紙には、青いボールペンで私と同じ数字が確かに刻まれていて、私のペアがこの男に間違いないことを物語っていた。



よりによって、日吉とは。

世にも恐ろしい肝試しを実現に持ち込んだ張本人を、私は末代まで恨むつもりでいたというのに。
行き場のなくなったイライラが、宙に浮いてしまった。
同時に、不安と恐怖でいっぱいになる。

どうしよう、怖い。
たまらなく、怖い。


拳を強く握ったら、手の中でクジがくしゃくしゃになった。
ペア発表は、まだ続いている。
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