第3章 スイッチガール〔渡邊オサム〕
壁際の席に座ったオサムちゃんの正面に腰掛けた。
オサムちゃんはアイスコーヒーを頼んだけれど、私はさっきの反省を生かしてホットコーヒーを選ぶ。
冷たいおしぼりで手を拭いたらとても心地よくて、緊張で手に汗をかいていたことを実感した。
「夏休み、どやった?」
「んー、早く終わってほしいなって」
「ははは、小学生みたいやな」
「え、そうかなー」
毎日こうやってオサムちゃんに会えるならずっと夏休みでもいい、とは口が裂けても言えなかった。
煙草に火をつけて、オサムちゃんはふわふわと煙を吐き出した。
私は運ばれてきたホットコーヒーにミルクピッチャーのミルクをすべて入れて、スプーンでゆっくりかき混ぜる。
「しっかし、ほんまに別人やな」
「え?」
「化粧して髪上げると、優等生のサンには見えへんで」
「そう、ですかね」
「俺は気にして見とるからわかったけど、他の奴やったら見逃してまうやろな」
気にして見てるって、どういう意味だろう。
どきどきさせないでよ。
期待しちゃうじゃないか。
「あ、どっちもべっぴんさんやで。そんな困った顔せんとってぇな」
「へ?」
「化粧が上手いて褒めると、女心ってフクザツなんやろ? オサムちゃん、いまいちそういうの疎いねん。はちゃんとどっちもかわええて言っとかんとと思てな」
「かわ、いい?」
「おん。かわええよ」
ゆっくり漂う煙草の煙が、オサムちゃんの表情にもやをかける。
どうせなら、赤くなっているだろう私の顔を隠してほしいのに。