第3章 スイッチガール〔渡邊オサム〕
夏休みなんて、大嫌い。
暑いからでもない、退屈だからでもない。
宿題が面倒だからでもない。
オサムちゃんに会えないから、だ。
二学期が始まるまで、あと十日。
気晴らしに買い物に来てみたはいいものの、街を歩いても欲しいものはまったく見つからなかった。
正確に言えば、八月終わりのうだるような暑さの中、秋冬物の洋服を見る気になれなかった。
うんざりしてカフェに入ると、冷房が寒いくらいに効いていて。
頼んだカフェラテをホットにしておけばよかったと少し後悔しながら、ストローでちびちびと飲む。
ソファの背もたれにずるりと背中を預けて、スマホを手に取った。
データフォルダを開いて、下へ下へとスクロール。
一番下のアルバムには、こっそり学校で隠し撮りしたオサムちゃんが数枚。
最近、もらいものの写真も仲間入りして、賑やかになった。
同じクラスの白石くんが、テニスの試合の日に「今日のオサムちゃんは気合い入っとるで〜!」なんて何枚か写真を送ってくれたときは、座っていた椅子から飛び上がるくらい嬉しかった。
白石くんは勘が鋭いから、私が授業中にオサムちゃんを見て呆けていたのを見逃してくれなくて。
思い出したようにときどきからかってくるから、私は他の子にばれないかどうかヒヤヒヤさせられている。
でも彼の送ってくれた写真は、自分で撮ったものよりも画質がかなりいいし、何よりオサムちゃんがちゃんと正面を向いていたから。
このときばかりは神様仏様白石さま、というくらい感謝した。
写真に写っていたオサムちゃんはといえば、いつもと同じ格好で、何に気合いが入っているのかはいまいちわからなかったけれど。
毎日飽きもせず見ているのに、こんなにもどきどきするなんて、重症だ。
現実には触れられない彼の顔に、思わず触れてみる。
指先に感じたのは、ディスプレイの無機質な硬さ。
存在の遠さを突きつけられる。