第15章 王者の休日(1)
取り立てて気になるようなことのないまま11月が過ぎ、初雪を迎えてから暦は今年最後の月へ移った。
その最初の土曜日に、俺たちは部活の合宿よりも簡素な手荷物で東京へ向かった。
この旅における最初のイレギュラー、それは俺の携帯への着信で知らされた。
新幹線の座席で大平と話しながら取り出した携帯画面に表示されたのは見慣れない文字列――「非通知」。
住所録に登録している相手以外からの連絡がほとんどない俺にとって、非通知表示で電話がかかってくるのはかなり珍しい。
俺は大平に目で合図をすると、座席を立ってデッキに向かった。
乗降口の扉横にある壁にもたれかかり、俺は通話ボタンを押下する。
普段ならば名乗るのだが非通知相手にそれはしない。
繋がった電話は無言。
誰かと問うその前に電話はプツリと切れてしまう。
…今のは何だ?
不審に思いつつ、車内に戻ったところでもう1度携帯が震える。
俺は画面を見やる――今度は見知らぬ番号。
再び扉の場所まで戻り、警戒心を抱えたまま、受話器のアイコンをタップする。
『もしもし…えっと、若利、か?』
俺は、一瞬、相手が誰だかわからずに黙り込む。
が、すぐに察した…コーチだ。
仙台を出るときは一緒だったが、車中で電話を受け、途中下車したきりだった。
『知らない番号から悪いな。俺の携帯、充電が切れてな。――お前たち、いま、どこだ?』
俺は記憶を頼りに、次の駅名を告げる。
終着点の東京まではあと2駅だったか。
『こっちは仙台に戻ってきた。すまんが、親戚が亡くなった、一緒にそっちに行けなくなった』
俺は
「中止ですか?」
と、最も可能性の高そうなことを先回りして尋ねる。
『いや。鷲匠監督に相談した。電車に乗っちまってんなら続けりゃいいだろう、って話だ。今、代理を探してるから、お前たちはとりあえず会場に行ってくれ』
コーチの指示を、俺は、席に戻って談笑していた3人にそのまま伝えた。
「大変だな、コーチも」
大平がまずコーチ自身を気遣ったが、通路を挟んで座る瀬見は青ざめた顔で別のことを気にする。
「…今日の宿代、どうなるんだ?」
俺たちは顔を見合わせた。
旅費は後日、自腹分をコーチを通じて支払う手筈になっている。
「学校に電話して、直接鷲匠監督に聞いてくる」
席を立つ大平に、俺と天童、瀬見は「頼む」と異口同音に唱えた。