第15章 王者の休日(1)
天海の提示した日は、12月の第1土曜と日曜。
電話の翌日に、俺は早速、そのどちらか1日だけでも休みにならないかとコーチの元へ相談に行った。
すると、意外な展開が待っていた。
「全日本インカレ? 若利、お前が?」
コーチが驚いた顔で俺に尋ね聞いてから、しばし考え込む。
「鷲匠監督とも相談するけどな…行って問題ないというか、むしろ、良い機会だと俺は思う」
今年の全日本インカレ最有力は東日本を制した都内の私立大であり、そこのエースは俺でも知っている全日本代表候補。
生で観ておいて損はないだろう。
コーチも天海と似たようなことを言った。
これは色良い返事が来ると、この段階で予想していた俺だが、いざ蓋を開けて見ると
「1泊2日、コーチ引率で生徒4人が試合観戦に行く」
という、妙な形で承諾が下りた。
交通費と宿泊費は半分が自腹。
決して悪い話ではなかったが、話を持ってきた天海と一緒の観戦は難しくなったと俺は思った。
それを周りに話したところ、まず最初に解決策を出してきたのが瀬見だった。
「現地で待ち合わせてて一緒に観ることできんじゃね?」
学食のカレーを頬張りながら、瀬見は何事もなくそう言う。
実は瀬見も観戦メンバーの1人だ。
当該日が3年のスポーツ特待生を対象とした特別補講の実施日であり、今回の観戦は俺、瀬見、大平、天童の2年4人に決まっていた。
「館内、全席指定じゃねーだろ」
「迷子になったフリしてコーチ巻いて、2人で観ればいいんじゃない?」
天童が軽い調子で挙げた案を、「こらこら」と大平が窘めて却下する。
「コーチに迷惑がかかるようなこと言うんじゃないよ。普通に事情を話して天海さんも一緒に観戦すればいいだろう?」
これは学校行事ではない。
そういった柔軟な対応をしてもらうことは可能かもしれない。
「それが1番いいな」と頷く瀬見の隣で、天童は俺を流し見ながら一言。
「いいかねェ…イチャイチャできないけど」
結論として、俺は大平案を選択し、コーチには当日、天海を紹介しがてら頭を下げることにした。
無論、事前に天海には事情を話した上で。
準備は万全だった。
…そのはずだった。
コーチが上京途中でとんぼ返りするなどとは、当然、誰1人、予想も想像もできなかったのだから。