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【HQ/R18】二月の恋のうた

第15章 王者の休日(1)


「全日本インカレ」は、その正式名称を「全日本バレーボール大学男女選手権大会」という。
開催期間は全6日間。

準決勝が行われる5日目、決勝と3位決定戦が行われる最終日のみ入場にチケットが必要となり、俺たちは仙台を出る前に前売券を各自手渡されている。

「天海!」

新幹線ホームの改札から出てすぐ、俺は天海を見つけた。

今日はポニテ姿。
薄紫のロングジャケットに淡いベージュの花柄のスカートで、格好としてはなんら珍しくないはずなのだが、雑踏の中でも一際目立っているような気がした。

「ありさちゃんはいつ見てもハイスペックだねぇ」と、背後では天童が歌でも歌い出しそうな口調で「そりゃ、若利くんも行くよね、ガブリと」。

元々は会場で待ち合わせていたのだが、急遽、変更して迎えに来てもらった。

――コーチ不在の今、東京の地理に明るそうな天海の案内がなければ、俺たちは誰1人として試合会場にたどり着くことができそうにないからだ。

「迷わずに来れた?」

天海は柔らかく笑んで俺にそう尋ねたが、俺の答えを待たずに天童へ視線を転じて「お久しぶりです、天童さん」と挨拶。
次いで、大平と瀬見に話しかける。

「直接お話しするのは初めてですね。――天海ありさと申します。いつも若利くんからお話は伺ってます」

彼女の小慣れた自己紹介に、大平は無難に返し、瀬見は少しどもった上で「うちの若利がいつも迷惑かけててすみません」と意味のわからない言葉を加えた。

天海は俺たち4人と測ったように均等に話をした後で、今度は均等に俺たちを見渡した。

「どうした?」
「ん…荷物、それだけ?」
「そうだが」

何を不思議に思っているのかわからない俺の代わりに天童が口を挟む。

「ありさちゃん、オトコの1泊2日なんてこんなもんだヨ」

「…じゃあ、そのまま会場に向かう…でいいですか?」

天海が俺たち全員に聞いてくる。
完全に引率者だな、と俺は思った。

「大平、連絡は?」
「鷲匠監督の折り返し電話待ちだ」
「天海さんに全部お任せします…でいいよな?」
「異議なーし! …でも、今の英太くんの言い方、ヤらしい」
「またっ、お前は…!」

俺にとってはいつもの風景だが、天海は口元に手を当てて笑った。
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