第15章 王者の休日(1)
俺の生活において大きな変化はなかったが、小さな変化は幾つかあった。
天童が俺の部屋に持ってきては勝手に積み重ねている本やDVD、それらの内容が微妙に変化した。
「若利くん、大事なのは実践だけど、知識は持ってて困らないから。ありさちゃんのためにも頑張って! あ、読んだら処分しておいてネ!」
もはや注意することも諦めた天童の「ありさちゃん」呼び、天海自身は気に留めていないようだった。
『天童さんだと何か許しちゃう…不思議と、ね』
そんな風に彼女は言う。
携帯を通して聞こえる声音は呆れながらも楽しげで、俺も「そうだな」と賛同した。
天童が“特例”となった瞬間だった。
あの日を境に天海と行う20分間の電話について「短かすぎる」と感じるようになったのも小さな変化のうちの1つだ。
口に出すことはないが、次に会えるのはいつだろうか、などと思うようにもなった。
そんなある日、彼女が俺に上京を提案した。
「全日本インカレ?」
『そう。一緒に観に行かない?』
「全日本インカレ」とは「全日本インターカレッジ」、大学生のバレー全国一を決める大会を指す。
俺は卓上カレンダーを手に取る。
提示された日は2日間。
どちらも丸印がつけられ、「体育館点検日」の文字が。
「今のところは空いているが…練習試合の可能性もある。明日、監督とコーチに相談してみよう」
『うん。たぶん、若利くんにとってマイナスになる観戦じゃないと思うから…行こう』
彼女の言葉に俺は虚を突かれた。
日々の中でバレーのことを最優先にしている自分。
それに対して何ら疑問を持ったことはない。恐らくこの先も俺は“それ”を疑問に持つことはないだろう。
そんな俺の選択を、彼女も優先してくれる。
出会った当初からそうだ。
天海は俺がバレーをする上で、弊害となるようなことはしないし、求めたりもしてこない。
今回のようにプラスになることを提示する。
「天海…」
俺は目を閉じ、眼裏に彼女を描く。
結った髪を揺らして天海が俺に柔らかく微笑む。
その髪が解かれ、一糸纏わぬ姿となって、俺の腕の中で苦悶と恍惚の表情を浮かべた。
――会いたい…抱きたい。
『なに?』
電話を隔てたこちら側で喘ぐ姿を想像されているとは知らず、彼女は明るい声で返事をした。