第14章 ★約束(4)
生まれて初めて入った“そういう場所”は、周りの話から俺が勝手に思い描いていたイメージと大きくかけ離れた、落ち着いた雰囲気の部屋だった。
薄いベージュの壁紙に、濃い茶色の柱や床。
照明は全体的にやや黄色味を帯びているのか。ベッド脇、天井から垂れ下がった白い紗幕、その陰影で推察する。
「リゾート風だね」
天海がそんな風に言って、持っていたバッグをベッド横のソファの上に置いた。
俺は天海の足跡を辿るように同じ場所へ行き、彼女に倣って持っていた荷物を置く。
「ホテルによっては――」
「天海」
話し途中の彼女の腕を取って、身体を抱き寄せた。
言葉を継ぐ時間さえ惜しんで、唇を奪う。
「…んっ…」
天海が小さく声を上げる。
一旦、口付けを解いて目を開けた。
天海が俺を見つめてきている。
抗議の類いではない。吸い込まれそうな澄んだ大きな瞳が語る。
その中心に、俺がいた。
「…若利くん」
名前を呼ばれた。
応える前に、天海が背伸びをして、一瞬だけ、自分の唇を重ねてくる。
「…今日は、もう会えないと思ってた」
「俺もだ」
掛け値なしの本音を告げると、天海が笑う。
「駅に来るって知って、私、落し物でもしてたのかな?って思った」
しっかりしたイメージにそぐわない話だと思ったが、考えてみたら、天海は過去に携帯を紛失していた。
思い出し、口を噤む。
「…会いに来てくれたとわかって、すごく嬉しかった」
「天海…」
「…会いたかったの。ずっと。だから、あんな形で、またしばらく会えないと思った時は…悲しかった」
俺は言葉を継がず、代わりに覗き込むように顔を寄せ、見つめ合ったまま唇を掠め取る。
撥音を含んだ吐息を漏らし、形の良い唇が薄く開いて俺を誘う。
舌を挿し入れようとすると、首に腕を絡めてきた彼女が俺の舌を甘く噛んだ。
心臓が跳ねる。
彼女の瞳が笑った。
背と腰に回した手に力を込めて、目を閉じ、やり直すように深い口付けを。
「…んっ…」
身じろぎと押し殺した声音。
揺れた身体の頼りなさげな柔らかさに、護りたいという気持ちよりも犯したいという凶暴な本能が煽られる。
舌先で上顎の裏をなぶるように撫ぜた。
「…んっ、んっ…」
天海の身体が応えた。