第14章 ★約束(4)
頬をほんのりと朱に染めて、天海が照れながら言う。
息を飲んで見つめていたところで、俺の後ろを通り過ぎていった見知らぬ男の独白に意識が奪われる。
「…可愛い子じゃん」
思わず、視線を転じた。
過ぎ去ってもなお天海を見ていた男は、だがしかし、俺と目が合うや否や顔を強張らせて目を逸らした。
「嬉しかったのと、あと、ちょっと驚いた…」
天海が言葉を紡いだ。
俺は、しゃがみこんだ天海に目を向ける。
「…いきなりですまなかった」
「うん…あのね、驚いたってのは、それもそうなんだけど、それじゃなくて…」
「…それ?」
「その、あのね…キ、キスが…」
俺は、天海の言いたいことを察し、聞かれる前に答えようと思った。
「以前のお前の『次までに上手くなってくれたら許す』という発言、あれを受けて練習しておいた。あれで良かっただろうか」
「――っ!」
天海が声にならない声を上げる。
頬の赤みはいや増し、顔全体が真っ赤だ。
「天海…?」
「…私っ、言葉に気をつける…!」
俺は、答えを与えてくれない彼女を見下ろしてもう1度。
「天海…あれで良かっただろうか?」
天海が口を結ぶ。
その口元が、幼子のようなアヒルのような形を作り――可愛いと感じる。
「…良かった、です…」
「今後の参考にもしたい。どこが良かったか指摘して欲しい」
「…ど、どことか…」
「天海」
俺は左手を広げ、天海へと伸ばす。
この手を取れ。
声に出す代わりに目で訴えた。
膝を抱えていた手を解いて、天海が腰を上げながら俺の手を取る。
…頬が緩んだのが自分でもわかった。
添えられた手を握りしめて俺は天海を引き上げる。
バランスを崩した彼女が短い悲鳴を上げて倒れこんで来た。
通りがかりの男女がその声に驚いてこっちを見る。
それを気にも留めずに、天海の身体を抱き支えた。
「ごめんっ、足、踏んでない⁉︎」
「踏んだが問題ない」
「ごめん!」
柔い感触、心地良い重さ。
ざわめく身体、荒ぶる胸の内。
呼吸を1つ。意識を彼女へと向ける。
「天海」
「はいッ」
「お前が嫌でなければ…俺は、あの続きがしたい」
俺は返事を待った――今度は“壁打ち”じゃない。