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【HQ/R18】二月の恋のうた

第14章 ★約束(4)


仙台駅前は週末らしい賑わいをしていた。
家族連れにタクシー乗り場を口頭で案内したところで携帯が細かく震えた。

『今、気づきました。仙台駅? どうしたの、部活は?』

通知画面をタッチして、こちらからの返信を打ち込もうとする。

「若利くん…!」

声は背後から。
振り返ると、駅ビルの入口から小走りにやってくる人影を捉えた――天海だ。

「どうしたの?」

どこから走ってきたのか、息を途切れ途切れにさせて天海が尋ね聞いてくる。
俺はそれに答える前に逆に質問を投げた。

「…天海、荷物はそれだけか?」
「荷物? 駅のコインロッカーにキャリーバッグ入れてる。バスまでまだ時間あるから」
「夜行バスの時間は何時だ?」
「11時半だけど」
「お前の時間をくれ」

俺は、息を吸った。

「お前のボールを受け取りに来た」
「ボール?」
「天海…俺がお前に口付けたことについて、お前はどう思った?」
「…………え?」

天海が笑顔のまま、瞬きを重ねる。

「えっ、えっ?」
「どう感じた?」
「ちょっ…感じっ…どうって、えっ、えっ⁉︎」

俺が見てきた中で1番の動揺を天海が見せる。

切なそうな顔をしていた、という天童の話を思い出し、俺は詫びることから始めようと決意する。

「会議室での件、すまなかった。お前の気持ちも考えず、勝手をした。俺は…自制することができなかった。あの瞬間、俺はお前が欲しかった」

俺の言葉に耳を傾ける天海は、途中で、自らの右手を頬に当てた。
その拍子に彼女の首筋を隠していた髪が退けられ、白い肌に赤い斑らな痕が目に留まった。

――派手な“証”。

「お前がどう思ったかを俺は知りたい。教えてくれ。お前の口から直接聞きたくて、ここまで来た」

言い終えて、待つ。

天海は俺から目を逸らして俯いた。
そして、突然、その場にしゃがみこんだ。

「…恥ずかしい…」
「天海?」
「…言われたことも勘違いも色々恥ずかしい…もう、ストレートな天然って、ホント、怖い…」

俺は、彼女の独白の意味するところがまるでわからずに、一拍置いてから口を開いた。

「天海…あの時の…」
「嬉しかった、です」

――天海が、しゃがんだ姿勢で膝を抱えて、上目遣いに小声でそう言った。
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