第14章 ★約束(4)
肩を叩いてきた大平の周りには2年全員が集まっていた。
「若利、はいよ」
そう言った大平が右手を出してくる。
目線を下ろした先には――数枚の紙幣。
見慣れた偉人の顔を凝視した。
話の展開が読めずに大平に目で問う…これは何だ、と。
「カンパだよ」
大平が笑みを浮かべた。
「タクシー飛ばせば帰りの新幹線に間に合うんじゃないか? 寮の外出届は俺たちで何とかしとくさ」
「…天海は…」
俺は、戸惑いながら口を開く。
「今日は夜行バスで帰ると言っていた」
「なら、時間たっぷりあるじゃん! どうせ発着場所は仙台駅デショ?」
大平の後ろから、天童。
調べてみないと何とも言えないと答えながら、俺は、それよりも重要なことを彼らに伝える。
「天海とは、会う約束をしていない」
「約束なんてこれから取り付ければいいじゃないか」
「先ほど送ったメッセージの返信もまだ来ていない。未読のままだろう」
「仙台駅に向かいながら連絡入れつつ返信を待てばいい」
「無駄足になる可能性もあるが…」
「ダメだったら帰ってくればいいさ…ほら」
大平が笑って善意の塊を差し出してくる。
俺は、逡巡する。
どうすべきか。
天童が言う。
「ボールはどっち?」
――決めた。
「…すまん。借り受ける」
紙幣を受け取って、俺は荷物を持ったままのジャージ姿で正門へ向かう。
白鳥沢から仙台駅までは路線バスが通っている。土日は極端に本数が少ないため、まずはその時刻を確かめようとしたところで、運良くその少ない1本がやってきたので飛び乗った。
着座するなり、俺は天海にメッセージを送る。
『仙台駅へ向かっている。お前に会うにはどこへ行けばいい?』
送信してから、今しがたの天童の台詞を思い起こす。
ボールはどっちか。
…ボールは天海。
俺のことを好きだと言ってくれた天海。
あの会議室での天海は、俺の行動を拒みはしなかった。
それは、受け入れてくれたということなのか。
あの震えは、怯えではなかったのか?
物事を白黒言う彼女。
表彰式に向かう俺には何も言わなかった。
(壁打ちじゃない、か…)
窓枠に肘を置いて頬杖をつき、外を眺めやりながら俺は天海を想う。
彼女が俺に向けた言葉と表情、その1つ1つを記憶の底から引っ張り出して。