第14章 ★約束(4)
「天海が…可哀想?」
不意打ちの――例えるならばそれはセッターによるツーアタックのような――言葉に俺は瞠目する。
俺の驚きは天童にも伝染し、天童は目を丸くして
「可哀想じゃない⁉︎」
と聞き返してきた。
俺は何が“可哀想”なのかわからずに首を傾げる。
天童は「うーん」と考え込んでから急に「英太くーん!」と瀬見を呼び出した。
山形と話し込んでいた瀬見が素直に呼び出しに応じて俺たちのところに来る。
「なんだ?」
「さっき話した、若利くんが人気のないところでイチャイチャしてたって話なんだけど」
「ばっ…お前っ、本人の前でそういう話すっか⁉︎」
「だって、今、俺たちその話をしてんだヨ」
平然と話す天童とは対照的に、なぜか呼ばれて話しかけられている瀬見が動揺を面に出した。
「若利くんがさ、何をどこまで“してた”のか知らないんだけど、いい雰囲気だったことは確かでさ。…そんな雰囲気が突然打ち切られちゃって」
「打ち切ったのお前たちだろ」
「それ、置いておいて! …だからね、えっと、いい雰囲気だったのにそれがいきなり終わっちゃってさ、じゃあまたね、なんて言われて相手が自分置いて出てっちゃったら、ハイ、英太くん、どんな気分?」
名指しされて、瀬見は2つの瞳をぐるりと180度回して考える。
「そ、そりゃあ…」
「はい、時間切れ!」
「あぁっ⁉︎」
「人それぞれかもしれないけど、若利くん、ありさちゃんは切なそーな顔してたよん」
何のために俺を呼んだんだと吠える瀬見よりも、俺は天童の発言が引っかかった。
「切なそう?」
「うん。…さっきのはさ、若利くんは自分の気持ちをありさちゃんにぶつけてたんでしょ。で、ぶつけられたありさちゃんの気持ちは受け取ってあげてたの?」
(天海の…気持ち…?)
考えもしなかったことが頭の中に投げ込まれた。
俺が天海へぶつけた情動。
それに対する天海の気持ち…?
「…若利くんがさ、ありさちゃんと向かい合って2人でトス練してたとするよ? 本来なら若利くんがトス上げる番なのにスパイク打ちたくて打っちゃった。でー、そこで自分は満足したから一方的にトス練を打ち切った、と。…これ、ひどいと思わない?」
俺は眉根を寄せたまま、呟いた。
「…ひどいな」